高校生の頃に読んで以来、40歳の今でも一番大好きな作品です。
読むと気持ちが沈んでしまうので、再読には勇気が必要。
厩戸王子の世界に引き込まれて、現実を1週間ほどフワフワ過ごすことになってしまいます。なので、ここ10年はあえて読み返さないようにしていました。
ですが、繊細で美しい、日本画のようなイラスト。あえて平面チックで仏像のような静止像が、山岸凉子先生の細い線とすごくマッチしている。作者にしか書けない美しい絵を見たくて再読しました。
文庫版ではカラーイラストをしっかり読むことが出来なかったので、完全版の書籍化は本当に嬉しいです。
日出処の天子の凄さと衝撃
この作品の主人公、モデルは聖徳太子です!
「聖徳太子」は亡くなってから与えられた名前なので、厩戸王子が主人公の名前です。
フィクションだけど、歴史上の人物や出来事と整合性がとれるように描かれているから、歴史のロマンを感じ取れる!古代に興味がわきます!
絵柄が独特なので、初めは好みが分かれるところだと思います。
だけど、どんなジャンルの漫画もとりあえず読める人なら、絶対にハマる(断言!)
厩戸王子の孤高の美しさに惚れるはずです。ぜひとも読んでほしい!
ザックリ話の筋↓
- 飛鳥時代の30代・敏達天皇の頃から33代・推古天皇が即位するまでの10年間が舞台
- 厩戸王子10歳から20歳、蘇我毛人(蘇我蝦夷がモデル)14歳から24歳の2人の魂の交流が主軸となって描かれる
- 厩戸王子は超能力を持つ異能者。人の心を動かす政治の才もあり、子どもの頃から周りに一目置かれる人物。
- 物語の根底には、実母から超能力を気味悪がられて疎まれ、愛に飢え孤独を抱える厩戸王子の苦しみがある(山岸凉子先生の作品は、母子関係をえぐる作品が多いです。)
- なぜか毛人にだけは厩戸の超能力が効かない。しかも、毛人と一緒にいると、厩戸の自分自身で制御できない荒れた心が落ち着く。
- 物語の前半は、厩戸と毛人の心の距離がグングン近づいていく。人を寄せ付けない厩戸が、徐々に毛人に心を開いていき、毛人も厩戸の孤独や苦しみを知ってお互いを分かち合っていく。
- 自分には毛人の存在が必要であると自覚する厩戸。毛人に愛されたいけど、その方法がわからず苦悩。
- 物語後半、毛人の結婚問題突入当たりから、読者にとってストレスフルな展開に。
- 毛人が好きになる布都姫の魅力がさっぱりわからない!毛人に失望!
- 厩戸の孤独と悲しみに読者の心もつらくなる展開。
- 最終回は、厩戸が推古天皇の摂政になるタイミングで終わる。誰も幸せにならない救いのない結末。
厩戸王子に心を持って行かれた読者は、最終回の衝撃にしばらく病んでしまうと思います。
私は久々の再読で、もう40歳で感性も鈍っているだろうし、読んでも大丈夫だろうと思ってたのですが・・・。
この記事を書いているのが、読み終えて4日目なのですが、まだ引きずっています。
初恋が叶わないなんて、よくあること。好きな人に振り向いてもらえないなんて、みんな経験しているさ!
頭ではわかっているんです。
だけど、漫画の中の厩戸王子の孤独と苦悩にすっかり共感してしまうこと!
その苦しみを抱えたまま、その後の一生を過ごす、ちょっと壊れちゃった厩戸王子を想うと!
何も救いを見いだせずに物語が終わってしまうと!
わかっていたのに、覚悟していたのに、やっぱり落ち込むんですよね。
それだけ、この漫画に描かれる厩戸の苦しみが読者にしっかり伝わるということ。これほど主人公の心に共鳴してしまう作品は、私は日出処の天子しか知りません!
一番大好きな作品だけど、なかなか読み返せない理由はそんなところにあります。
一般的なボーイズラブ作品とは全く違う、スケールの大きなお話なのです。
私の文章では伝えきれないのがもどかしい。。。そんな作品。
厩戸王子が手に入れられなかったもの
- 母親の愛
- 毛人の心
恋愛とはまた違った、深い愛を厩戸は欲していて、愛に飢えていました。
毛人が女性を好きになってしまうことで、厩戸は心を取り乱します。
物語後半は、恋愛対象として厩戸は毛人に迫ります。毛人は真面目人間なので、自分の厩戸への性的興奮から目を背け、布都姫を愛そうとします。
厩戸が毛人に恋愛対象として1番に自分を見てほしい、と向かうところが、悲劇に向かうターニングポイントだったなと感じます。
恋愛じゃないとダメだったの?と。
10代の若い頃は、恋愛が全てみたいなもんです。でも、自分も歳を重ね40歳になると気が付く。
恋愛なんてきっかけにしか過ぎないということに。
恋愛感情は無くなっても、人と人を結びつけるものは「信頼関係」と「お互いへの尊敬・敬愛」です。
厩戸は気前良く、毛人と布都姫の結婚を許していればよかったのです。
そしたら、毛人の厩戸への信頼と尊敬は消えません。増大していく!毛人は一生頭が上がらないよ!!
厩戸は、毛人の1番になりたいという嫉妬から、毛人の結婚の願いを取り下げ、果ては布都姫を殺そうとしました。
毛人の厩戸への信頼は崩壊。
最終回での厩戸の必死の説得も、毛人は拒絶するしかなかった。
恋愛ではなくて、厩戸が毛人を大きな愛で包み込むような、そして毛人が厩戸を深く敬愛する関係。
それが、この2人にとってのベストな関係だったのではないでしょうか。
厩戸は超能力を使って、夢の中ではあるけれど、現実に毛人とイチャイチャできるんだし。毛人だって覚えているんだから!なんて便利な超能力(笑)。
物語序盤は、親から子へ注ぐような、そんな愛情を毛人も厩戸へ向けていました。その愛情を厩戸が感じ取り、信頼と敬愛でお互いの心が結ばれていれば!!!
恋愛なんて、一瞬だよ!それよりも、やっぱり大切なのは「信頼」と「人として尊敬できるか」だよ!
毛人のことになると、先を見通す厩戸の天才ぶりがどこかに行ってしまう。
その苦悩っぷりと、耽美的な2人の交流がこの物語の悶えるポイントってのはよくわかっているんだけれど!
ラストの悲惨さを知っているから、どうすれば2人は穏やかに長く心の交流を続けることができただろうか、幸せに過ごせただろうか、と考えずにはいられない!
毛人に布都姫をあてがっておけば、毛人はすぐに布都姫に飽きたと思うよ(爆)。
だって、布都姫には刀自古や大姫(推古天皇の娘)が持つ、人間的な魅力が全く見当たらないんだから!顔で選んでるよね、毛人(怒)。
穴穂部間人媛に複雑な思い。母親って責任重すぎる。
穴穂部間人媛(あなほべのはしひとひめ)が、この物語のキーパーソンなのは間違いないですよね。
厩戸の実母である間人媛が、厩戸を少しでも理解することができていれば!
厩戸の女性への嫌悪感も変わったんじゃないかな~って。女性の一見大人しそう、優しそうでいて、実はしたたかで物事をしっかり見定めているところを、厩戸は母親への思慕の裏返しで嫌っていたんだろうな~って感じるんですよね。
厩戸は同性愛者というよりは、両性愛者。理解者なら、女性でもOKだったんじゃないかな。たまたま毛人が男で同性だった。女性でも、膳美郎女(かしわでのみのいらつめ)なら大丈夫だった。
毛人にだけ見せる、厩戸の柔らかな笑顔。
その笑顔を見た時、間人媛から何か厩戸にアクションを取ってほしかったな。
山岸凉子先生の作品は、母親になってから読むときついものがある。
子どもの問題は、何でも母親との関係に結び付けられる。そして、とっても納得できてしまうから、母親の責任の重さに胃が痛くなるのです。
私は3人の子ども達がいるけれど、果たしてどんな成長をするのやら。
山岸凉子先生の長編漫画は読むと気持ちが沈むため、覚悟が必要ですが、
山岸凉子先生の短編漫画は、登場人物に深く感情移入する前に読み終えることができるので、今でもよく読みます。読めます(笑)
まとめ
この作品が連載されていた1980年から1984年は、まだ私が生まれた頃。この頃の少女漫画が大好きです。
日出処の天子は、色々とタブーをたくさん扱っているので、実写化やアニメ化は難しそう。だからこそ、作品のイメージを変えずに、心の中で愛することができています。
私は大学生の頃、この作品ゆかりの地巡りで奈良・京都に行きました!一生の思い出です。
神社仏閣巡りが楽しくなる漫画でもあります。法隆寺の夢殿を見た時は、心が騒ぎました。
子どもが高校生になったら、歴史に親しむ方法の1つとしてオススメしたい漫画でもあります。
山岸凉子先生の作品の紹介記事は、こちらにも。
ぜひ、読んでみてくださいね。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
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