読んだらイヤな気持ちになるミステリー=イヤミス
イヤミスの女王と呼ばれる小説家、湊かなえさんの短編ミステリー6編が収録された「望郷」を読みました。
6編全て、主人公も他の登場人物も、ガラッと変わります。でも、共通するのは6編とも架空の島「白綱島」が舞台という共通点。
文庫本の解説にて、湊かなえさんの出身地「因島」がモデルであることが書かれています。
私は湊かなえさんの長編小説は、「告白」や「夜行観覧車」など、何冊か読んでいます。そんな私が本書を読んで感じたことはこちら。
- 短編なので、慌ただしい毎日の合間にさっくりと読み切れる
- 島特有(?)の、閉塞感や凝り固まった固定観念に、読んでて息苦しさを感じる
- 本書では、(私は)イヤミスになりません。むしろ、ミステリーに驚かされて、読後感は良い
- 短いながらも、主人公や他の登場人物の人生を感じ取ることができて、人間の業について考えさせられる
- 淡々と読み進めていき、最後のほうで「そういえば、この本はミステリーだった!」と驚かされるパターンが、最高に面白い!!!
未読の方は、是非、気軽に手に取って読んでみてくださいね。
ここから先は、ネタバレを少し含む形で感想をつらつら書いています。ご注意くださいね。
※各話のランキングは、私自身の感覚ですので、参考程度にご覧ください。
みかんの花
読了後の衝撃度 | |
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主人公への共感度 | |
島特有の閉塞感 |
主人公の「私」は一度も白綱島以外で生活したことがない。
高校卒業を目前に控えて、行きずりの男と駆け落ちした姉のことを許せないでいる。
「私」が子どもの頃、父親は交通事故で死亡。父親が不倫相手とともに亡くなったことで、残された母と姉と「私」が、島の人々から変な目で見られてしまうことの理不尽さがこれでもかと書かれています。
でも、島以外で暮らすことを考えられない母親と、当時はまだ小さかった姉と「私」。子どもって親のエゴに振り回される存在であることを、実感してしまいます。
それにしても、田舎ってこんなに陰湿なのか?!もっと、平和でゆったりした優しい人間関係ではないの?都内近郊でしか暮らしたことがない私には、これがファンタジーなのか、現実なのか、全くわかりません。ただただ、閉塞感が半端ないです!
全く連絡をとっていなかった姉が、25年ぶりにしれっと島に戻ってきた理由は、最後の数ページではっきりわかります。
どうして姉の態度は、25年ぶりに戻ってきたとは思えないほど飄々としているのか。
読者としては姉は無礼というか、非常識というか、都会に出て成功をつかんだ(人気小説家になった)ことを鼻にかけたヤな奴って感じがしましたが。
でも、全部伏線だったのですね!
姉はいつも要領が良くて、先回りして「私」を助けてくれる頼れる姉だったこと。
姉はひどいイジメを受けていたけど、けっして弱音を吐かない強い人だったこと。
全部が、物語の結末に繋がっていたんだ~、と読了して唸りました!
大どんでん返しに驚きました。田舎怖い~って読んでいて、最後の数ページでミステリー小説だったことを思い出しました(笑)
白いオブジェの前での、姉と邦和の会話を読み返さずにはいられませんね。
海の星
読了後の衝撃度 | |
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主人公への共感度 | |
島特有の閉塞感 |
主人公は浜崎洋平。
島出身だけど、今は妻と息子と一緒に島外で暮らしている。
小さい頃に、洋平の父親が行方不明となり、母親と2人で侘しい生活を強いられた。
洋平の父親が行方不明になった理由は、最後まではっきりと明かされません。事故だったのかなぁ?
母一人、子一人となって、食べるものにも困る貧しい生活。骨の多い小魚を食べると、当時の貧しい生活を思い出すという主人公の回想に共感しました。
・・・
「おっさん」との出会い。
おっさんが主人公と母親に近づいた理由が、このお話のミステリーでした。
結末は泣けるし感動します。
まず、私は「おっさん」が洋平を虐待していたんじゃないか、これは養父が子を虐待する物語なのではないかって、冒頭に思いこんじゃっていたのですが、全然違いました。
おっさんは、贖罪の念を持った優しい人でした。でも、何となくだけれど、洋平の母親(←美人)のこと好きだったと思う。
おっさんも、シングルファザーだったもんね。一緒に時間を過ごすうちに、再婚を夢見ることもあったんじゃないかな。
洋平が、おっさんとの思い出を苦々しく思う気持ちはとてもよくわかりました。施しを受ける居心地の悪さ、といいますか。父親が行方不明なのに、おっさんが家で魚をさばいてお父さんのような雰囲気を出していることに対しての何ともいえない気持ちとか。
特に何かひどいことをされたわけではなく、むしろ、おっさんには良くしてもらってるのに、素直に受け入れられない子ども心。
大人になって、美咲経由だけど「ありがとう」を伝えることができて良かった!
夢の国
読了後の衝撃度 | |
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主人公への共感度 | |
島特有の閉塞感 |
主人公の「夢都子」は、だいぶ病んでいるなぁと感じました。
あんな祖母と、祖母に逆らえない父と母との暮らしは、子どもの心を歪ませてしまう。
東京ドリームランドは夢の国。モデルは東京ディズニーランドですね♪
憧れた場所って、行ってみたら意外と「こんなものか」ってなるのはわかる。感動はするんだけどね。それだけ、何十年も子どもの頃から憧れ続けて、現実から抜け出すことを夢見ていたってことなんでしょう。
「主人公が祖母を見殺しにした事実」については、そりゃ~そんな環境で、そういう祖母だったらしちゃうんじゃないかしら?って思った私は腹黒い人間ですね。
夢都子の回想で「人として大切な感情を確実に一つ燃やし尽くしてしまった」という言葉に共感しました。私も、感情が欠落している自覚があるもので。
このお話、いまいち夢都子が幸せそうに見えないことから、読後感はイマイチでした。
夢都子は、本当に夫を愛してるのか?そうは見えなかった~。。。夫哀れ。娘が救いですね!
夢都子が真に自由になれる日が来るのは、いつなのかしら?
雲の糸
読了後の衝撃度 | |
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主人公への共感度 | |
島特有の閉塞感 |
人と人との繋がりって、ありがたいものなのか?
逆に、煩わしいものなのではないか?
そう思わずにはいられない、主人公を囲む島の人々の態度。「吐き気がする」という人間の態度が、このお話からすごく感じ取れました。
人気ミュージシャンになっても、絡みついてくる昔の人間関係。
逆に、人気ミュージシャンになったことで、自分の過去に嫌でも対峙せざるをえなくなった主人公。
最終的には、ハッピーエンドで良かった。
姉がグッドジョブというか、しっかり母親と主人公の仲介役を担ってくれていて、読後感は最高に良かった。
最大のミステリーは、母親が父親を殺してしまうほどの「何か」とは何だったのかということでした。
酒乱の父親を躊躇せず殺してしまうほどに、母親が守りたい存在って?
「自分の子ども」ですね。うーん、納得。
子どもが殺されかけたら、その後のこととか何にも考える余裕もなく、私も同じ行動をとったでしょう。
主要登場人物の主人公・母親・姉の関係性にほっこり。壮絶な人生だった母親に、共感せずにはいられませんでした。
ただ、やっぱり「みかんの花」のお話でも思ったけれど、出所後、島外に引っ越せばよかったのに~とは思わずにはいられませんでした。
やっぱり経済力は大事だよね。。。
石の十字架
読了後の衝撃度 | |
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主人公への共感度 | |
島特有の閉塞感 |
家庭環境が悪いという理由だけで、「あの家の子」というレッテルを張られる恐怖。
ご近所になんでも知られていることは、良くない。ほどよい距離感が、丁度よい。
「めぐみ」の家庭環境が劣悪なことから、ちゃんとご飯を食べていないだろうことを想って、孫娘に立派な巻き寿司をおやつに持たせる主人公の祖母がすごく良い。
さりげない優しさは、きっと島の中にもたくさんあったんだろうけど、異質な存在になってしまったら、やっぱり狭いコミュニティは窮屈で仕方ないだろうな。
大人なら、そんな環境から抜け出せないのは自業自得と言えるけれど、子どもには何の罪も無い。
それでも、「めぐみ」は大人になってもずっと島の中で生活をしている。
島の外に行きたいとは思わないのかが不思議です。
主人公の娘は、登校拒否気味。以前に、私の娘も少し登校拒否していた期間があり、下記の言葉に共感しました。
思えば、志穂と二人でこんなにじっくりと向き合ったことなど、なかったのではないか。
学校へ行けない理由を問い詰めてはいけない、ということと、真剣な話をしない、というのはイコールではないはずなのに。
【望郷】「石の十字架」より
あとは、主人公の母親が、父親を自殺に追い込んでしまったくだりは、私自身にも同じような経験があるため、精神疾患の家族への接し方の難しさについて、一人落ち込みました。
どうすればよかったんだろう?と過去に思いを馳せつつ、答えは出ません。
でも、今後、今いる私の家族が何かを望んだ時は、全てを受け入れられるような度量のある人間で居ることが、みんなが幸せでいられるために必要なのかな~。
光の航路
読了後の衝撃度 | |
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主人公への共感度 | |
島特有の閉塞感 |
イジメの加害者の心理がよくわかるお話です。
そして、被害者にどのように矛先が向かうのかも具体的に書かれています。
ミステリーとなる部分は、父親が家族とではなく、なぜ1人の青年と一緒に進水式に行ったのか。その青年は、父親とどんな関係だったのか、というところかと思います。
感動的な話でしたが、私はイジメ加害者の心理にムカムカしました。
いつだって、被害者が我慢したり、逃げたりしないといけないこと。
加害者は自分は間違っていない、悪くないと本気で思っていること。
でも、よーく考えて振り返ってみれば、私も加害者の立場になっていたことがあるのかも?
このお話に書かれているような、壮絶なイジメは本当に現実にあることなのかと驚くばかりでした。
そして、ターゲットになる理由があまりにも単純で。
主人公は、自分も父親のような教師になろうと心を強くもつのですが、果たして加害者とその親とは対峙できるのか?
なんか、無理そう・・・と思ってしまったのでした。
まとめ
本書には度々「イジメ」がでてきます。島の中での、ご近所同士でのイジメ、学校でのイジメ。
逆に都会だったら、みんなもっと他人に関心が無いから、ラクに生きていけるだろうに・・・と思わずにはいられませんでした。
登校拒否の子も出てきて、母と娘の関係性が、参考にもなりました(石の十字架)。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
湊かなえ作品感想の記事はこちらです。
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