ネタバレありの感想です。未読の方はご注意ください。
ルッキズムというのでしょうか、見た目・容姿を主題にした本作。
読み終えて、容姿をからかわれたことによる、言われた側の認知の歪みというか、被害妄想的な考え方になってしまうことの重大性を認識しました。
それによる、何も罪のない次世代への影響というのか。
それぞれの登場人物に罪は無いんだけど、一人の少女に自殺を決断させるほどの大きな出来事を引き起こしてしまったことに、最後の2ページで驚愕しました。
人間関係って難しい。でも、世の中のルッキズムの意識は良い方向であることを実感しました。
湊かなえさんの作品「贖罪」と同じように、各章でそれぞれ1人が語る形式。
文体から、それぞれのキャラクターを想像しやすい。私は読みやすくて好き。
最後の、自殺した少女・有羽の生前の告白と、キーパーソンである母親・八重子の語りで全てが明らかになります。
聞き手が美容整形外科医の橘久乃。なぜ自殺した少女について聞いてまわるのか徐々にわかってきます。
一人語りする人物は、女性もいれば、男性もいる。年齢もいろいろで、立場も違う。
各章で語る人物の性格や考え方、価値観、事実の捉え方が多様。
それぞれの人物の話を、最終的に繋ぎ合わせる作業は、読者自身がやる必要がある。まるで、頭の中でジグソーパズルをしている感じ。
最終章の、最後の2ページが衝撃でした。そして、ピタッと頭の中のパズルが完成した爽快感も味わえます。
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ここからは、この書籍の中で、共感したことや、衝撃だったこと、解せなかったことなどの感想を、つらつら書いていきますね。
なぜ少女・有羽(ゆう)は自殺したのか
美容クリニックに勤める医師の橘久乃は、久しぶりに訪ねてきた幼なじみから「やせたい」という相談を受ける。
カウンセリングをしていると、小学校時代の同級生・横網八重子の思い出話になった。
幼なじみいわく、八重子には娘がいて、その娘は、高校二年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。
母が揚げるドーナツが大好物で、それが激太りの原因とも言われていた。もともと明るく運動神経もよかったというその少女は、なぜ死を選んだのか――?
「美容整形」をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる、心理ミステリ長編。
アマゾンホームページより抜粋
ルッキズムを気にして美容医療をやり過ぎた人の末路なのかと、読む前に予想しました。
ですが、ことごとく裏切られます。
全く違う終着点に行きつく。
根底にあったのは、母子関係でした。育ての母に拒絶されたことに、発作的に死を選んでしまったと読み取りました。
幼い頃に実母を亡くしたこと、複雑な家庭環境だったことも影響したのかな。
ルッキズムとは全然別のところに答えがありました。
率直に感じたのは、血のつながりがない母娘は、血のつながりがある母娘よりさらに大変そうだ、という感想。
有羽は脂肪吸引手術によって痩せて、小さい頃に亡くなった実母・千佳そっくりの見た目を手に入れた。
自分が太っていなければ、育ての親・横網八重子とまた一緒に暮らせる。八重子はきっと喜んでくれる。
その一心で、有羽は手術を受けたのに、八重子はパニックになって「来るな」と怒鳴って家を飛び出してしまう。
八重子は恩人である千佳に罪悪感を抱いていた。
被害妄想の気質が影響して、千佳の忘れ形見である娘・有羽にひどい言葉を投げてしまう。
有羽は、八重子に拒絶されたショックで、おそらく衝動的に自殺。
健康な人間が、発作的に自殺できるものなのか?あんなに明るくて元気な子が?何か、心に不安定な部分があったんだろうな。。。
(ツッコむとしたら、もっと母子で連絡取り合って、よく話し合えばいいのに~ってなるところだけどね)
血がつながっていないことは、そんなにも無償の愛を信じることが難しいのか?
余談ですが、有羽の父親のような、いいとこどりする人間って本当にいるんですよね。周りを不幸にする人間。
私も40年以上生きてきて、いろいろ経験したけれど、純粋な良い人が、一番ひどい目に遭う。
この小説だと、有羽の自殺にいきついてしまった。
聞き手の橘久乃の振る舞いも、悪気無く周りをかき乱す行動に繋がっていること。
他の子より太っているという特徴が災いし、子どもの頃にたくさんいじめられてきた経験から、八重子の被害妄想はできてしまったようです。
有羽の自殺に、橘久乃が知らず知らずに大きなきっかけを作っているんですね。
逆に、同じように太っていても、八重子とは違ってとても明るく成長する有羽という存在がまぶしい。
有羽は、容姿が性格を形作るのではなく、性格は容姿をも凌駕するのだと証明する存在でした。
そんな有羽が、脂肪吸引手術を受ける決意をした経緯と、自殺した経緯を知ると、家庭環境の大切さを思い知ります。
橘久乃が美容整形外科医を志した理由?
この小説の狂言回し・美容整形外科医の橘久乃。元ミス・ワールドビューティー。
美人だからこそ、いろいろ許されてきたところがある。本人は気が付いていない。
高飛車でズケズケ物を言う橘久乃の振る舞いが、語り手の言葉で随所で語られています。
久乃のことを、私は好きになれませんでした。
どうしてカンボジアの飢餓に苦しむ子どもの手助けをしたいと考えて医者になったのに、美容整形を選んだのか?
第二章の語り手・如月アミが言うように、自分が持ってる美を失いたくないから美容整形外科医になったのかなと、私も感じました。
志保が脂肪吸引手術を受ける決心をした経緯について
この小説にも、湊かなえ作品あるあるの、田舎のコンプレックス、農家、時代錯誤な厳格なおばあちゃんが出てきます。
物語が進むにつれて、第一章の語り手である、志保の性格の悪さが見えてくる。第一章の本人の語りだけだと気が付かなかった、志保の人を傷つける言動に気が付けます。
主観と客観で大きく捉え方が変わるのっておもしろい。
10代の頃に、長距離走で賞をとるくらい本気で走り込んでいたランナーなら、中年になってからでもランニングを再開できるし、ランニングしていればそこまで太らないと思うのだけど。
そこに、とってもひっかかった(私がアラフォーになってからランニングしているので。)
知らず知らず、若い頃のアイデンティティを形作っていたものを失う怖さ。これは共感しました。
自分のアイデンティティ(痩せの大食いをうらやましがられていたこと)を崩壊させた最後のトドメが、湊かなえ作品によく出てくる怖い祖母。
田舎の古い家の中で絶大な権力を握り、息子夫婦とその子どもを苦しめる存在ですね。でも、息子夫婦は従ってしまうという。
確かに、意地悪だから嫌いと思っていた祖母に、こんな風に言われたら、手術受けてでも脂肪を取りたいって思っちゃうかも。
まとめ
堀口父と、堀口息子にとても癒された。
高校時代の先生は、共感できた。家庭の問題への介入の程度って、判断できないよ。難しい。
湊かなえさんの作品にしては、読後感は思ったほど悪くなかったです。
おもしろくて一気に読み進めます。おすすめ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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